教えのルール　８

こちらで、武道が盛んだと以前書いたことがあります。道場に入るときに挨拶をして入る生徒がいます。なかなかですよね。何か武道をやっているのかと聞くと、ハイ空手をと返事が返ってきました。そうかで、思考がストップします。あえてこれ以上は聞きません。それでよし。空手を習っても、その道にあるであろう日本独自の礼儀までは、期待しても無理ですよね。道を習うのであれば、掃除から始まり掃除で終わるのが常識ですが、その掃除を行うという作業が彼らには理解できません。

　私のクリニックでは、治療室の掃除から患者さんが使用するパジャマのアイロンがけまですべてをスタッフがします。このことを当たり前としてここまで来ましたが、古いスタッフはこれを抵抗感もなく行いますが、新しいスタッフはそのことに納得がいかなくて辞めてゆく者もいました。私とすれば、クリニック全てのことを理解して患者さんを迎えるということの大事さをわかってもらうためにとあえて行うセレモニーと理解しているのですが、この辺のところが微妙に食い違います。

　俺は治療師であり、なぜ掃除をやらなくてはならないのかとの考え方です。掃除をして患者に向かう姿勢を培うなんてとんでもない発想なのです。アイロンがけにしても、きれいに、そして早く、電話が鳴れば一つの仕事をしながら他の仕事に早急に対処するという訓練なのにそれがわからないのです。掃除が完璧に早くできる人は、やはり治療も完璧に出来るのです。アイロンを完璧にできる人は治療も完璧に出来るのです。そこのところを見たくてあえてやらすのですが、人件費を安くするためのオーナーの方針とみるようです。見習いは必ず掃除から始めるのですが、なかなか続ける人がいなく、うちのスタッフはベテランばかりで切り盛りしているのが実態です。

確かにこの国は、一本の木を見ながら森を見る的な発想はなく、いつも一本の木だけが主人公といった傾向が強く、それが世の中に濃く反映しています。会社の組織にしても帳簿付けで採用されたら一生その仕事だけをしていれば良しの発想です。営業は営業の仕事、販売は販売の仕事と一つのことをやる、他は知りませんがヨーロッパ人の頭の構造なのです。そのことが全体像を見て判断するという発想を未熟なものにしたのかもしれません。これは総合職としての人材を育成する事を怠ったためにヨーロッパが立ち遅れたことにもつながります。この頭の構造発展の歴史が治療師の掃除拒否に間接的につながっているのですから面白いものです。この国のデパートに行き、どのようなサービスでお客様に対応しているかを一目見ればご理解できると思います。やりすぎ日本も問題ですが、俺はこの部署のものでほかのことは知らねえよ、あっちで聞いてくれ、がこちらのサービス業界においてNO１の名だたるデパート、エル・コルテ・イングレスですからお恥ずかしい限りです。

指圧を教えることを通じて、マクロ的発想を教えます。すなわち指圧治療の全体像を伝授します。西洋医学がミクロの治療に走ります。医者は細分化された医学を否応なくOKを出します。それが流れだからです。その中で手技療法はマクロの原始的治療で西洋医学で掃除できなかった端っこの部分を掃除します。それが私たちの仕事なのです。医者が主役。私たちはあくまで黒子に徹するのです。一頃流行ったあのハリウッド映画、空手キッドのみやまさんです。

おーー　また茂節が始まったとベテランは、こそこそとお便所と言って逃げ出します。私はめげずに掃除の意義はと、十八番（おはこ）をがなります。反撃開始です。反復は基本中の基本です。逃げ遅れた古幹(古い幹部）はあくびをこらえて聞いています。