正しいことと、出来ること

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前回で書いた大谷木工所と大宮家具センターというのは、親父の兄貴が創業した会社なんです。自分のガキの頃の思い出なんで、戦争に負けて、みんな一からスタートしたあのエネルギッシュな頃の話です。親父の兄貴というのが、マー元気のいい人で、路地で今でいえば、モツのごった煮をでかい鍋で作ってみんなにごちそうしてたのを思い出します。腕にひょっとこの入れ墨がありました。最もそのひょっとこは、素掘りで、色がなく、なにか中途半端な入れ墨でした。親父の話だと、あまりに痛いんで,やめたんだろう、とのことでした。またお灸好きで、皮膚に直接、お灸をするので、直径3㎝ぐらいの化膿した丸跡が2,3背中にありました。お灸を我慢できるのだから、入れ墨だって我慢できたはずですので、なんか事情があったんだと思いますが、既に昔、昔のことですのでお袋に聞いても、そんこともあったねーとはぐらかされそうです。

 家具といっても学校で使う椅子、机が主であの頃は、まだまだ100パーセント、木材のしっかりしていたものを作って学校に卸していたようです。今でも思い出すのは、大宮から目白の学習院に軽トラックで行って、机や椅子の修理をアルバイトと称して若衆に連れられて行ったのを鮮明に思い出すことができます。お昼が来ると大きいホールの学食レストランに行き,食券を買って生真面目そうな学生に交じって昼飯を食べるのが楽しみでした。
 学校の裏手には、うっそうとした木立が茂り、目白通りの喧騒が嘘のような静けさの場所に先生方の借屋がありました。その先生方の家の家具の簡単な修理を若衆の指示で手伝ったのを覚えています。今考えるとなぜ学習院かは、わかりませんが、時代の流れに逆らって100パーセント木材のがっちりした椅子、机をその大学は、大事に使っていたのかもしれません。

 まだまだパイプの机,椅子が出回る前の時代ですので、注文がガンガン来て、家具屋も活気がある時代で、秋田からの集団就職の若衆が何人も働いていました。いい時代だったんだとんだと思います。おがくずが、毎日出ますので、そのおがくずは銭湯のボイラーにといった効率の良さで、万事が復興景気で踊っていたんだと思います。おがくずのにおい、乾燥室の湿った木材のにおい今でも思い出すことができます。大宮家具センターも週末は結構こんでいたし、順調に行っていたら、それなりの老舗になっていたのかもしれません。
 大塚家具が創業が1964年ということですから、ずっと前方を走っていた家具屋で、そしてブームに乗っていた木工所だったんだと思います。ガンガンに働く押しの強い大将、肉が元気の素と脂切っていた人が、結構早い時期に脳溢血で倒れたのでした。それから寝たきりの状態が、何年も続き、復帰を果たせずにお亡くなりになりました。その間、引き継いだのが、長女のダンナです。秋田から上京してここで働いていた人が、長女の旦那さんです。丁度家具屋の過渡期だったのかもしれません。
 机も椅子もパイプの簡素なものに変わりつつありました。それでも手堅くやれば、生き残れたのでしょうが、拡張して室内家具を製作、販売をこころみました。手堅さを忘れて、華やかさを求めた結果、借金を背負い倒産です。工場内に赤紙の差し押さえの紙が、所狭しと貼ってあったのを今でも覚えています。戦後の波に乗って成長した会社が、波に乗り切れずに沈没です。
 1代目は、現実を見ながら勢いを利用して成長、そして2代目が、時代を読めずに勝負にでて沈没です。よくあるパターンです。近藤という元中日新聞のジャーナリストが、言っていたことが、妙に印象に残ります。大塚家具の現状を例えて、娘社長の言っていることは正しいです。こうだからこうします。まさに正論です。しかし現実を垣間見て現状に合わせた動きをしないと事はうまく進みません。時代を読んで、時代に合わせた動きをすることは正論なんですが、しかし会社の今の現状、会社の体質、会社の人材、会社の資産、会社の歴史を鑑みて大将が現実に即した決断をしないと、無理が出てひずみを生じ、やがては亀裂が起こり崩壊の運命が待っているのです。
 商売は学問ではありません。生き物です。いつも大将が方向性を見極めて、身の丈をわきまえて行動しなければ必ず失敗します。零細企業は、機敏な動きと早い決断が、勝負の命運を分けます。大企業には大企業の動きがあります。この辺の器がない奴、そんな大将は、即刻辞退した方が、部下もありがたいのですが、裸の王様のなんと多い世の中。つぶれるまで判らない奴のなんと多い世の中、それが現実のようです。そんなことを言っていました。
 創業者は、ゼロからスタートした強み、例えゼロになっても元々、何も怖くはありません。しかし2代目は、守らなければ、守って当たり前、いつも先代を意識します。ここら辺のプレッシャーに耐える器があるか、ないかが、勝負の分かれ目なのかもしれません。

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